日暮れの音

台風の目

この十年来、記憶に残っている病のうちでもっとも質の悪い風邪を引いたせいで、この週末、比較的優先度の高かった予定がなくなってしまった。熱は引いたのだけれど未だふらふらする体と喉の痛みが残り、なにをやるにも満足にいかない。本の文字を追うにも先月末までの大仕事のために連日の無理がたたり、子供の頃から疲れてくると症状の出るまぶたの痙攣のせいで活字がページからこぼれて逃げていくので、これも諦めた。

窓から外を見ると景色は大粒の雨で、曇ってどんよりと白い空を背景にその一区画をじっと見ているとまぶたの痙攣も手伝ってテレビの砂嵐のように見えてくる。ベランダの竜胆が花の時期を終えたので、深く気品のあった蒼から茶に変色したその花がらを詰む。今は代わってシクラメンとビデンスが満開で、殊にビデンスの黄色い花は勢いが良い。

砂糖の摂り過ぎになることはわかっているのだがどうしても苦しくて、喉の痛みを和らげるためにのど飴を舐める。それから室内でいつも同じ向きで置いていたために偏った成長をしてしまった植物の鉢をくるりと回して、それだけでその植物がいつもそこにあったものと違うものに見えることにやや驚きを覚えた。

少しの間だけ落ち着いていたまぶたの痙攣が今度はパソコンの液晶画面からも文字をこぼし始めたので、席を立ちまた外に目をやる。台風は少しずつこちらへ向かっているらしく、強い風のせいで雨は横なぐりに変わっていた。

先ほど飲んだ風邪薬のせいで眠気が込み上げてきて、意識が砂嵐を抜け出たと思ったら、そこは台風の目、窓外の雨音に寝かしつけられる。