秋の合奏
実家に帰り夕食時に両親との会話がふと途切れた時、外から聞こえてくる虫の声がすっかり秋のものであることに気がついた。一体何種類の虫が泣いているのだろう。それは全体として調和のとれた心地の良い音で、言うなれば弦楽四重奏でヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどのヴァイオリン属と呼ばれる楽器が、その音の高低差で豊かな和音を奏でて行くように、スズムシ、キリギリス、コオロギ、マツムシ、秋の虫と総称される彼らがみな同じ直翅目に属しながら、相手の声を打ち消すことのないよう、お互いに配慮しながら、その音を鳴らしているかのようだった。
進化という観点から捉えれば恐らく、既に誰かが使っている音で鳴いていては自分の存在を伝えたい相手に伝えられないため、まだ誰も使っていない音で鳴く必要があったのだろうが、自らの音を選ぶ中で、人にとって不協和音が耳触りの悪いように、彼らなりに他者の音との調和を測ってきたのではないか。それは脳の発達とは無関係に彼らと我々、音を使ってコミュニケーションをとる生物が共通して持つ、本能に根ざした感覚なのだと思いたい。
そう思って東京へ戻ってくると、東北では背を見せ始めた夏もまだまだ健在で、街路樹にとまってなくクマゼミの大音響に、先ほどまで考えていた想念は一気に消失してしまったのだった。
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