秋の空
昼食を食べようと入った駅からすぐのガード下にあるなんということもないラーメン屋で、店構えとは対照的に個性的な店主が、常連らしい初老の婦人へいつもそうしているのだろう、柔らかめにしておいた、と長めに茹でた麺を供する傍らで、私はスープが思っていたよりも熱かったせいで舌を火傷してしまったのだが、我慢していた空腹を満たすべく黙々と謹んで食事を進めていた。
暑くて大変だね、でも来週くらいには大分涼しくなるんじゃないかな、と店主は婦人へ向かって言った。そして、だって風はもう秋の風だよ、と付け加えた。その言葉はガード下のラーメン屋にはやや不釣り合いに詩的な響き方をした。そうね、空がもう随分高くなって、と婦人が応じると店主はその言葉に的を射られたとでもいうように、そうだね、うまいこと言うね。そうだよ、秋は空が高いんだよ、と深く感心してみせた。そして私の方にちらりと目を向けると、右手の人差し指と親指で輪っかを作って、ニヤッと笑顔を見せた。それに応じて美味しいですね、と答えた私に店主は、ああ、じゃあ今日は最高だよ、六日に一遍しか成功しないから、と言って笑ったのだった。
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