日暮れの音

たむらしげるの世界展Ⅱ 空想旅行

たむらしげるの世界展Ⅱ 空想旅行

2012.06.01(金)-2012.07.16(月・祝)の期間、八王子市夢美術館で開催されている「たむらしげるの世界展Ⅱ 空想旅行」に出かけた。

    *

小さい頃、両親が読んでくれた絵本の中で印象に残っているものは沢山あるけれど、中でもたむらしげるさんの『ロボットのくにSOS』は大好きな作品だった。

ある日、変わり者のだが優しいフープ博士を、ルネ君は大事にしていたオモチャのロボットを修理してもらうために尋ねた。博士は壊れてしまったオモチャのロボットを見ると早速修理に取り掛かるのだが、その時、誰かがドアをノックする音が聞こえる。ドアを開けるとそこにはぜんまい式のロボットが立っていて、驚くフープ博士に自分の国が地震によって大変なことになってしまったので助けて欲しいと告げる。そしてフープ博士とルネ君は、このぜんまいロボットの案内でロボットの国を救う旅にでる。

    *

中学生になった頃、ジュール・ベルヌの『地底旅行』を読んでいて、そこにこの作品のモチーフを発見した私は、頑固者の鉱物学教授とその甥の冒険に、優しいフープ博士とルネ君が重なり、危機が訪れたロボットの国を救いに行くその物語を思い出したのだった。

現在は福音館書店より「こどものとも傑作集」として出版されている。初版は1996年9月10日。私が両親に読んでもらったのは当時購読していた月刊誌「こどものとも」だったので、もっとずっと以前のことである。今でも実家に帰れば本棚に並んでいて、保存状態も良好な筈だ。

ロボットの国では地震によって発電機が止まり、ぜんまいロボット以外の仲間たちは皆止まってしまうのだが、旧型で皆に馬鹿にされているというゼンマイ式ロボットはしかし、そのために博士の元へ助けを求めに来ることができた。

今、我々は3.11の地震と津波の被害で、原子力発電所が事故を起こす大惨事を経験した。そして大飯原発は多くの反対を押し切って再稼働されたが、最新のテクノロジーを駆使したがゆえの危うさを知っている私たちは、だからこそ、このぜんまい式の旧型ロボットにこそ見習うべきものがあるのではないか。

    *


会場で買った絵葉書とピンバッジ。

展示された原画は、線画をスキャンしてコンピュータで彩色したり、6色刷りのために作者自ら色を分解したり、描いたものをジオラマにしてカメラで撮影したりと、たむらさんの表現へのこだわりが強く感じられる。

ピンバッジ・カップ
左:ピンバッジはぜんまい式ロボットのランスロット。
右:2007年、ギャラリーG8のチャリティー企画で購入したランスロットのカップ&ソーサー。

繊細なグラデーション、シンプルすぎるほど線や色数を排した作品群。フェルメールの真珠の耳飾りの少女が巻くターバンのような鮮やかな青。深い海に沈んでしまったような夜の空の色は、見ているだけで吸い込まれそうな気持ちになる。いや、おそらく、初めて両親に『ロボットのくにSOS』を読んでもらった時から、すでに私はこの青に吸い込まれていたのだ。