日暮れの音

品々を結ぶもの〜もののはずみ〜

もののはずみ

自分は、何かを集める、ということをしない人間だけれど、それは言い換えれば、出会いが少ない、という風にも言えるのかもしれない。だからフランスの街角で堀江敏幸さんを呼び止めた品々は、きっと出会うべくして出会ったのだろう。そんな風に思う。

私には欲がないせいか、それとも始終金欠に喘いでいるせいか、衝動的に何かを買ってしまう、ということはほとんどないのだが、唯一の例外は古書の類いで、こればっかりはどんなに切り詰めた生活を送っていたとしても、出会ってしまったが最後、財布が空になってしまおうと購入してしまうのである。だから収集家やコレクターと呼ばれる人たちの気持ちは何となく想像出来る。しかし収集家やコレクターと呼ばれる人たちにも、また、自分にも共通しているのは、その収集の対象の範囲というのが基本的には、なにかしら限定的なものであるということである。一つの分野のものに関心を示し、収集する。これがいわゆるコレクションというものではないだろうか。
堀江敏幸さんの『もののはずみ』と題されたこの本は、そんなコレクションという枠からはみ出した著者の収集癖と、収集家や、コレクターといった人たちの関心の対象にはなりにくい、しかし、がらくた、というにはどこか愛せる、そんな品々の自己紹介に著者が耳を傾けて、それを書き記したかのような本だ。この本を読み終える頃、映写機からゴム印まで、一見文脈のないその品々の共通性が、星々を線で結び星座を見ているように、分かってくる。